私の一冊 385号

『100歳のジャーナリストからきみへ』

私の一冊 378
  • いま私が薦めたい本
  • 『100歳のジャーナリストからきみへ 』
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  • むのたけじ 著 全5冊 (汐文社)

     
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  •                         今井 康之       

 むのたけじ(武野武治)さんは、1915(大正四)年に秋田県で生れた、今でも現役のジャーナリストです。二・二六事件のあった1936年に報知新聞社に入り、乞われて五年後に朝日新聞社に移籍しました。アジア各地にも取材に出かけ、日本の植民地支配の実態や、従軍記者としては侵略戦争の現場を身をもって体験しました。

 1945年8月10日、天皇が裁断を下し、日本政府はポツダム宣言の受諾を決めました。この情報が新聞社にもたらされたのは、8月12日だったと、むのさんは語っております。しかし社のトップは、日本が壊滅状態になるような戦争に進んで加担しておきながら、責任ある総括と社針は一言も示しませんでした。むのさんは命をかけても事実と真実の報道に徹することをしなかった側に自分がいたことにケジメをつけなければ、人間ではなくなるとの判断をし、十四日に朝日新聞社を辞めました。

 むのさんは、なぜ日本が戦争をする国になったのか、どうして止められなかったのかを自分に問い、考え抜きます。国家といえども一人一人の人間で成り立っている。その一人一人がよく考えよく行動すれば、国は必ずよくなっていく。これはむのさんの信念です。

 むのさんはこの考えを実行に移しました。1948年、郷里の秋田県に家族あげて引越をし、そこで地域新聞「たいまつ」(岩波現代文庫一部収録)を30年も発刊し続けました。

 むのさんは、今年100歳の誕生日と戦後70年を同時に迎えました。日本を再び戦争をする国にしてはならないとの思いも込めて、4月から表記のシリーズの刊行が始まりました。菅聖子さんが、むのさんと若き読者との仲介をするという表現形態をとっており、読み易い工夫がされています。私は、このシリーズはむのさんが日本のみならず世界中のこれからの歴史を継ぐすべての人々(幼少青壮老)への遺言として受けとめています。刊行は『はだしのゲン』を出版した汐文社。1『学ぶ』、2『平和』(以上既刊)、3『生きる』、4『育つ』、5『人類』(以上続刊)。

                     

(岩波書店 社友)