私の一冊 384号

『現代日本の思想ーその五つの渦ー』

私の一冊 378
  • 『現代日本の思想ーその五つの渦ー 』

  • 久野収、鶴見俊輔 著 (岩波新書)

  •    ~「生活綴り方」から「学びほぐし」へ~
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  •                         筒井 和代       

 春から社会人向大学院のプログラムを受講している。開校のあいさつで「学びほぐし」という言葉を繰り返し聞いた。この「学びほぐし」という言葉は、実は鶴見氏のいわば造語だ。

 鶴見氏がハーバード大の学生だった夏休み、ニューヨークの日本図書館でヘレン・ケラーに出会う。「私はハーバードの学生です」というと、ヘレン・ケラーは、「私はその隣のラドクリフ女子大でとてもたくさんのことを学んだ。だがその多くを “Unlearn” しなくてはならなかった」と言った。この“Unlearn” に鶴見氏は「型どおりにセーターを編み、ほどいて元の毛糸に戻して自分の体に合わせて編み直す情景」を想像し、「学びほぐし」と訳した。
 約二十年前、私は友人から「『現代日本の思想』は良い本だと思うが、生活綴り方運動を何で思想として取り上げているのかが分からない」と言われた事があった。ちょうど鶴見氏の講演があり、直接質問をする機会に恵まれた。

 「生活綴り方運動は、『自らの生活を文章にする事で自己洞察を深め、生活者としての現実認識を育てることが出来る』と考えられており、その『知識は自らで生み出す事が出来るという思想』が重要だという事でいいでしょうか?」
 すると鶴見氏は大いにうなずきながら、現在の学校教育制度は、知識が上から下へ与えられているので、自らで知識を生み出す力が削がれている状況だと指摘された。

 最近、社会人向ワークショップ等で鶴見氏由来の「学びほぐし」が提唱されているのは、鶴見氏の「与えられた知識を自分なりに編み直す重要性」が伝わっているからではないかと思う。 
 私自身もこれから「学びほぐし」に取り掛かる予定だ。そう、鶴見さんへお伝えしたかった。

                     

(特定非営利活動法人 熊本子どもの本の研究会 会員)