私の一冊 381号

『窓から逃げた100歳老人』

私の一冊 378
  • 『窓から逃げた100歳老人 』
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  • ヨスナ・ヨナソン 著/柳瀬尚紀 訳 (西村書店)

     
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  •                         岩佐 敬昭       

 この小説を一言で表すならば、「very Swedish」である。ストーリーを紹介できないのは残念であるが、登場人物も舞台設定もまさにスウェーデン的である。作品が持つテンポの速い破天荒な面白さとともに、以前住んでいた時のことを懐しく思い出しながら一気に読了した。

 主人公のアランは、無限のエネルギーと楽観性を持ち、限りなくKY(空気読めない)な100歳の老人で、行く先々で事件を起こすが、本人はいたって幸せである。世界的な福祉国家であり、日本と並ぶ長寿大国であるスウェーデンには、自立した元気な高齢者が確かに多い。

 また、作品中に出てくる舞台装置も一々Swedishである。例えば、行方不明のアランを探しに行く先の一つが公営酒販店だが、この国では酒屋は全て公営である。サーカスから逃げ出した象も登場し重要な役回りを演じるが、私も以前家から徒歩2分の公園で象がのんびり草を食んでいてびっくりしたことがある(後でサーカスのスターということが判明)。逃げた象を誰かがこっそり飼育することも、全くありえないことではないと妙に納得した。恐らく作者は、この小説を国内用に書いたのであろうが、思いもよらず人気が出て世界中で800万部以上売れたのだろう。外国人を意識したスウェーデン国内事情の説明がないのも、逆に味が出ている。

 決して善良な市民とはいえないアランをはじめとするその仲間たちや、悪役たちまでも憎めない性格に描かれている。悪役の何名かは喜劇的な最期を遂げるが、それでも登場人物はみな生き生きと幸福そうで、人生のコツを体得していると感じさせられた。日本人も人生を楽しむために、いつでもいつまでも幸せなアランに(いい意味で)学んではどうだろうか? 

                     

(国際連合大学サステイナビリティ高等研究所大学院 事務局長)