私の一冊 380号

『苦海浄土』

私の一冊 378
  • 『苦海浄土』
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  • 石牟礼道子 著   (講談社文庫 他) 
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  •                         渡邉 元子       

 「あら、石牟礼さんと同じ。」これはたつみや章さんの言葉。 ちょうど5年になる。開講式を終えて、数人でお昼を食べに行く途中、自分の病気(パーキンソン病)について話したときの反応だった。

 まだ、『苦海浄土』を読む前のことで、その後、読んで初めて「すごい作品」であると感心し、この作品について市の読書会で発表した。その文章を少し紹介しよう。

 ――仕事を辞めて4年になるが、この間読んだ本一五〇冊の中で最高の作品であると思う。正直、読む前までは、よくあるプロパガンダなノンフィクションだと思っていた。つまり、「多少の文才のある主婦が奇病という社会現象に出合い憤然として書いたノンフィクションなどという軽薄な読み方」(池澤夏樹の言葉)をするところだった。――

 私が読んだのは、図書館の古い本で、3巻全部を一気に読んだ。私が特にいいと思ったのは、人々の言葉である。たとえば「杢よい、おまや この世に 母さんちゅうもんを持たんとぞ。かか女のしゃしんな神棚にあげたろうが。あそこば拝め、あの石ば。拝めば神様とひとつ人じゃけんお前と一緒にいつもおらす。」

 話し言葉なら、しゃべった人が上手だったのでは、と思う人がいるかもしれない。しかし、そうではない。これは石牟礼道子の言葉なのだ。池澤氏もこう書いている。 「方言の魅力を存分に生かしたこの話法を誰がここまで鮮やかに描き記しただろう。石牟礼道子は、それほどの耳と筆の持ち主であったということだろう。」

 私と石牟礼さんの共通点は、病気だけではない。実は干支も同じ、兎である。私は、1951年11月22日生まれ。石牟礼さんは1927年3月11日生まれである。3月11日といえば、東日本大震災の日だったから、石牟礼さんは、たぶん3月11日生まれを意識しながら生きていかれるだろう。私も還暦の年に大震災が起こったことを忘れずに生きていこうと思う。

                     

(熊本子どもの本の研究会 会員  大牟田市在住)