私の一冊 374号

『はせがわくんきらいや』

奇跡の子
  • 『はせがわくんきらいや』
  •     
  • 長谷川集平/作・絵 (すばる書房/復刊ドットコム) 
  •     
  •                         金子 玲子        

 図書館へ行った時のことです。新しく入った絵本が並んでいました。きちんと表紙が見えるようにディスプレイされています。そこを通った時、『およぐひと 長谷川集平』の字を目にして、「あっ長谷川くんやないの。」と咄嗟につぶやきました。ずいぶん長い間会っていなかったのに、すんなりと。それ以前長谷川くんに会ったのは三十年ほど前でしょうか。『はせがわくんきらいや』という絵本の中でした。昔の友だちに再会したような親しみを感じながら、この本を久しぶりに読み返してみました。

 長谷川くんの体と同じようなくねくねした表題。見返しにはたくさんのほ乳ビン。長谷川くんはヒ素入りミルクを飲んで体が弱く、すぐ泣く。「女みたいやなあ。」「なあおばちゃん、なんで長谷川くんあんなにめちゃくちゃなんや。」山登りしても野球しても、いつもだめな「長谷川くんなんか、だいだいだいだいだいきらい。」と綴られています。しかしそんな言葉とは裏腹に、一緒に描かれているのはひとりの男の子がいつも長谷川くんのそばにいてあれこれ面倒をみている絵なのです。

 十代の頃、このヒ素入り粉ミルク事件を知りました。同じ昭和の時代にもしそのミルクを飲んでいたら、私が長谷川くんだったのかもしれないと衝撃を受けた当時の気持ちが浮かび上がってきました。こんな絵本ははじめてでした。

 新しい長谷川さんの『およぐひと』は、「わたし」が「あそこ」で見たことを「むすめ」に伝えようとしますが、胸がつまってなかなか言葉にできません。その場面の瞳の美しいこと。ヒ素も震災も、ちゃんと隠さず描こうとすることに私も胸がつまります。

                      

 (特定非営利活動法人 熊本子どもの本の研究会会員 北海道余市郡仁木町在住)