私の一冊 372号

『奇跡の子』

奇跡の子
  • 『奇跡の子』
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  • デイック・キング=スミス 作/さくまゆみこ 訳(講談社) 
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  •                         菊島 紘子        

 数年前 本好きの友人から勧められた一冊です。
 羊飼いのトムは羊の出産シーズンを迎え、寝る暇もなく大忙しだ。そんな中、羊たちの中に、生後間もない人間の赤ん坊が布に包まれて泣いているのをみつけた。 子どものいない羊飼いの夫婦は大喜びでこの子を養子にした。だがこの子(スパイダーと呼んでいたが)が大きくなるにつれ、他の子と違うと思い始めた。いつか他の子と同じになると信じながらも不安な日々を送っていた。ある日 やっと歩き始めたスパイダーがかっこう鳥の声のする方を眺めていたが「カッコウ」と声をあげた。それはカッコウ鳥そのまま。
 「まあ スパイダーなんて上手なの。他の子にはとても出来ないわ。」母親は今までの不安が消し飛んだ。それからのスパイダーは犬でも猫でも馬でも牛でも鳥たちでも話しかけて会話をしている。農場主はスパイダーに仕事をあたえようと考えた。スパイダーは13歳になっていた。彼の仕事は麦畑の鳥追いだ。スパイダーはこの仕事が気に入ってよく働いた。
 スパイダーに出来そうな仕事を農場にいる皆で考えた。どの仕事もゆっくり片付いてゆく。農場の男たちは皆やさしい。

 この本を読んでいる間中、私は一人のダウン症の男の子(S君)を思い浮かべていた。
 S君との出会いは20数年前、今の住居に越してきてまもない頃。集会室でおはなし会を始めてお客様で来てくれた。だが、おはなしを聴く訳でもなく落ち着かない。そのうち 一番早く来て集会室の前で待つようになった。そして会場作りを手伝ってくれた。それはもう、いきいきと。
 だがおはなし会が始まると出て行ってしまう。そして出たり入ったり。おはなし会が終わると早速片付けを手伝う。それはそれは、嬉しそうに。
 S君のお母さんはこの事を知って、それからはお母さんのお膝でおはなし会に参加してくれるようになった。勿論 会場作りと片付けは本業としてやってくれた。

                      

 (特定非営利活動法人 熊本子どもの本の研究会会員 横浜市在住)