私の一冊 366号

『くんちゃんのだいりょこう』

くんちゃんのだいりょこう
  • くんちゃんのだいりょこう
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  • ドロシー・マリノ 文/絵  石井桃子 訳   (岩波書店)
  •      渡辺 摩利子         

 毎晩娘たちに読んであげる絵本、巷に溢れる本の中からどれを選んだらいいのかなと迷い、ある日図書館での集まりに初めて顔を出してみた。30年前、千葉にいた頃の事だ。市内で文庫活動等をしている人達の、毎月の勉強会だった。「字は読まないでね」と言って一人の方が前に座り、当日の課題本『くんちゃんのだいりょこう』の読み聞かせを始めた。

 その日、この地味な一冊の絵本から、私は忘れられない二つの衝撃を受けた。 一つ目は、子どもにとって絵本を読んでもらう事の楽しさ。読んでもらいながら絵だけ見ていると、絵本の中のくんちゃんや小鳥の表情、森の中の落ち葉の音までが生き生きと私に迫ってきた。ああ、子ども達はこうして絵本の中に入り、まだ見たこともない別な世界を体験しているのだなあ、絵本は子どもにとって違う世界を見せてくれるものなんだということが、頭ではなく、心の中にストンと入り理解できた。娘たちは毎晩、布団の中でこんな体験をしていたんだ。絵本を読んでもらう楽しさを、私はこの時身をもって体験した。

 二つ目は、このくまのお母さんたちの子どもに対する接し方。くんちゃんが南の国に行くといっても、ダメとか、無理とかも言わず、好きなようにさせてあげる。そしてじっと温かく見守っている。私は娘達に「そんなことしたらダメだよ」とか「危ないよ」などついつい先走りが多かった毎日を反省。こんな親になりたい。こんな風に子どもを優しく、大きく包んでじっと見守ってあげる親になりたい。私は心の底からそう思った。この本は私の子育ての方向を具体化した。

 その後、何度か引越をしながら、その都度いつも新しい地で、絵本や児童書のサークルに加わってきた。本棚にあっても私なら手にとらなかったかもと思う本を読んで感動したり、皆のいろいろな考えを聞き参考にしたり・・。そして今も続いているこの大切な仲間との繋がりの第一歩は、この本との出会いから始まった。

 (特定非営利活動法人 熊本子どもの本の研究会 会員)