私の一冊 365号

『こがね丸』

たたかいの人―田中正造
  • こがね丸
  •     
  • 巌谷 小波 著   (講談社)
  •      福田 稠         

 かつて、講談社から子供用の絵本が売り出されていた。『イソップ童話』から『桃太郎』まで、ライン・アップは豊富で、人気があった。その中で、私の一番のお気に入りは、この『こがね丸』であった。その理由は、先ず第一に、登場する動物達が擬人化されていて子供の心を惹きつける。さらに、中身は、主人公の犬の『こがね丸』が、長い年月をかけて、親の仇を討つと言う話である。我が家でも柴犬を飼っていて、犬は家族同然であり、父母は、子供にとってかけがえのないもの、しかも仲間の動物に助けられて仇討ちをするのである。ワクワクする物語であった。

 二つ目は、『こがね丸』と言う名前である。私の母の実家は四国の松山で、よく里帰りをした。その時私はいつも一緒で、松山へは、別府から船で行く。その船名がなんと『こがね丸』であった。もちろんお供は絵本の『こがね丸』。船室はベッドで紅茶やケーキが供される。当時としてはハイカラな雰囲気で、母と二人だけの至福の時間であった。

 さて、絵本の原作の『こがね丸』は、1981年に発表された巌谷小波の児童文学者としての出世作である。今、改めて原作を読み返してみると、いくつかの疑問がわいてくる。まず、その文章である。文体は馬琴調で、当時流行していた言文一致体をとっていない。又、ルビがふってあるものの難解な言葉が多く、文章の五七調も子供にとってわかりやすかったかどうか、内容について言えば、ねずみの阿駒が我が身を天麩羅にして供する話は薄気味悪いし、虎の金眸が妾の牡鹿をはべらせたり、黒猫の鳥円がねずみの阿駒に懸想する等、当時の子供にとって穏当なものであったのかどうか。現在、かつて人気のあった『こがね丸』が忘れさられている所以かも知れない。本稿を起すにあたって、旧友『こがね丸』に再会し、懐かしい時間を過す事が出来た。御依頼頂いた横田幸子さんに感謝したい。

                                                              

 (医療法人社団愛育会 福田病院  理事長)