私の一冊 364号

『失われた九州王朝』

たたかいの人―田中正造
  • 失われた九州王朝
  •     
  • 古田武彦 著   (ミネルヴァ書房)
  •      たつみや 章         

 いわゆる『邪馬台国論争』九州説の論者の一人、古田武彦が一九七三年に世に問うた、より真実に近い日本古代史を語る一冊である。

 いまだ定説の地位は得ていないので、試論と呼ぶべき一学説の立場だが、妥当性は高くほぼ正鵠を射ていると私は評価する。

 四十年前の上梓だが、古本屋を探す必要はない。現在刊行中のミネルヴァ書房『古田武彦・古代史コレクション』シリーズに入っている。私が出会ったのも、この新版による。

 第一巻は、発表当時センセーショナルな話題となった『「邪馬台国」はなかった』だが、こちらは文献学に基づく魏志倭人伝の詳細な検討という内容なので、コアな古代史ファンを自認する人以外には、二作目の本書のほうが読みやすく面白いだろう。

 今回この本を取り上げたのは、読み物としても面白いし、ファンとして古田史観を広めたい思いもあってのことだが、それとは別に、本との「出会うべき時期」の話をするのに恰好のネタでもあるからだ。

 初刊は私が考古学専攻の大学生だった時。読んでいてもおかしくなかったが、手をつけなかった。三年前に新版を本屋で見つけて、作品のネタが拾えるかもという下心で買い込み、初めて触れた新機軸に興奮してハマった。ところが先日、本棚の整理をしていて古田著の文庫本を三冊も見つけた。たぶん三十代で読んでいたのに、きれいさっぱり記憶から消去されているのだ。

 それはつまり「今という時点で出会うべき本」だったのだと思う。学生の私や、作家の卵ですらなかった私では、古田史観と真正面から関わるのは早過ぎて、本能的に回避した。

 だが、いまや時は来た。大和政権時代から現代に至るまで、不都合な真実として隠されてきた本当の日本古代史に、光を当てて浮かび上がらせてみせる。見識と筆力を試される大仕事だが、いまならやれると信じよう。

 そんなわけで新作の準備中です。よろしく。

                                                              

 (児童文学作家)