私の一冊 361号

『星の王子さま』

星の王子さま
  • 星の王子さま
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  • サン=テグジュペリ・著 / 内藤濯・訳

    (岩波書店)他
  •   芦田 徹郎 

 70年前に原書初版が刊行されたこの有名なファンタジーが社会学のテキストになることに、近年になって気づいた。孤独、きずな、ケア、責任、信頼、親密性、モラトリアム(おとなになるための準備期間)とアイデンティティなど、現代社会学のテーマにつながるトピックがちりばめられているのである。

 主人公の「小さな王子」は、ともに暮らしていたバラとの関係に疲れて自分の星を逃げ出し、孤独な旅に出る。旅の途次、王さま、ビジネスマン、地理学者など、王子の目にはヘンな、しかし一般的にはごく普通かむしろ立派な「おとな」たちと出会う。王子にとってこれらのおとながヘンなのは、人やモノを渇望しながら、その人やモノの役に立つ気はないからである。自分にしか関心がない。そのため自分自身も孤独であって、だれも王子のさみしさを癒すモデルにはなり得ない。

 地球に着くと、キツネから、友だちが欲しいのなら「飼いならす」ことが必要だと教わる。ここで「飼いならす」とは、自分から働きかけ、ケアをして、心を許しあう関係になるということである。それはまた「きずな」を結ぶことでもあるが、きずなを結んだ相手には永遠に「責任」があるとも教えられ、王子は、ひとり残してきたバラへの責任に目覚める。

 責任responsibility(responsabilité)という言葉は、応答responseと能力・可能性abilityからなり、合わせて応答能力・可能性ということになる。責任があるとは、相手(他者)の呼びかけに耳を傾け、それに応えるということでもある。王子は最後にバラのもとに帰る決心をする。バラの呼びかけが王子の耳に届いたのであろう。「かんじんなことは、目に見えない」とは、この物語の中のよく知られたフレーズである。だから「心で見る」。耳にも聞こえないかもしれない。しっかりと心の耳をすまそう。

 このようにして、授業は続いていくのである。

                                    

(甲南女子大学人間科学部教授・文化社会学)