私の一冊 356号

『2歳から5歳まで』

君たちはどう生きるか
  • 2歳から5歳まで 
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  • コルネイ・チュコフスキー 作 樹下節/訳 (理論社)
  •   中村 柾子 

 40年以上も前のこと、駆け出しの保育者だった私に、自分が選んだ仕事は間違いではなかったと気づかせてくれた教科書のような一冊です。これといった保育技術もなく右往左往の日々に、子どものおもしろさを、きちんと理論化して見ていくことの大切さを教わりました。

 1950年代のソヴィエトといえば、「階級によって、子どもの言語発達は異なる」とか、子どもにナンセンス物語などとんでもないという時代です。そんなおかしな論が横行する中で、児童文学者で、大人の文学を書く作家で、編集者でもあるチュコフスキーは、子ども時代こそおもしろく確かなものを、と主張し続けました。 幼い子どもが、どのように言葉を覚え、使いこなしていけるようになるか、ロシア語というわかりにくさはありますが、子どもらしいものごとの捉え方が、活き活きと伝わり、洋の東西を問わず子どもはおなじだなと嬉しくなりました。

 一例を挙げてみましょう。「ふしぎだね。ぼくコーヒーも水もお茶もココアものむでしょう。だけど、ぼくの中から出てくるのは、お茶だけだよ」

 チュコフスキーのもとに寄せられた、たくさんの子どもの言葉は、やがて人々に迎え入れられ、子どもの本の世界を変えていく原動力ともなりました。この本から学んだもうひとつの事柄は、チュコフスキーの子どもの本の評価の確かさです。説教がましいものや道徳的なものを排除することは当時、たいへん抵抗のあることだったでしょうに、子どものための本は、こうあるべきという確かな指標を持っていたのです。~文学の上で幼児をほんとうに興奮させるのは行動と事件の急速な交替だけです~こんな何気ないひとことに、「その通り」と相槌を打ったことを憶えています。子どもの本にやたらと多く登場する形容詞を苦々しく思っていましたから。

 のちに、私たちは瀬田貞二の『絵本論』を持ち、子どもたちのための絵本選びに迷いが要らなくなりました。併せて私の宝物です。

                                       

(元 保育園園長)