私の一冊 353号

『三十年と百年』

君たちはどう生きるか
  • 三十年と百年 
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  •        
  •      山口 昭男         

 「熊本子どもの本の研究会」が今年創立三十年を迎えられるとのこと。おめでとうございます。十五年目の節目のときにお伺いして、お話をさせていただいたのが、ついこの間のことのように思われます。

 岩波書店は今年創業百年の一画期を迎えます。教員をしていた岩波茂雄が、1913年、32歳のときに立ちあげた店です。出発当初従業員は五人で、古本と新刊の両方を扱っていました。最初の新刊本は、翌年刊行した夏目漱石の『こゝろ』です。そして1927年に岩波文庫を、38年には岩波新書を創刊します。敗戦直後、1945年12月には「戦争を止められなかったのは、文化が大衆のものになっていなかったからだ」との反省に立って、雑誌『世界』を創刊します。また一九五五年には『広辞苑』を刊行するなど、これまでに累計およそ34000点の書籍を刊行してきました。

 岩波茂雄は自らを「文化の配達夫」と呼び、これはいまでも岩波書店の理念となっています。

 いま活字離れ、本離れということがよく言われますが、そんなことはありません。本を読む子どもたちは確実に増えています。大人になって忙しくなるにつれ、本がだんだん遠くに行ってしまうようです。

 この会で学んだことの一つは、「想像力を豊かにする」ということです。子どものころ読んだ絵本、童話の一つひとつの場面を大人になっても忘れていないのは、子どもは誰でも「想像する力」を備えているからです。吉野源三郎さんの『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)に出てくるコペル君のように、悩み、学ぶことによって、自分の宇宙をどれだけ拡げられるか、それが想像力です。「熊本子どもの本の研究会」はこれからもぜひその手助け役を務めてください。私たちも成長の扉となるような本を世の中に送り出していきたいと考えています。  

                                       

(岩波書店代表取締役社長)