私の一冊 351号

『〝少女神〟第9号』

レイモンド・カーヴァー傑作選
  • 『〝少女神〟第9号』 
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  • フランチェスカ・リア・ブロック 金原瑞人・訳 (理論社)         
  •      片岡 輝         
                              

 リア・ブロックは1962年のハリウッド生まれ、この本が翻訳された2000年当時、アメリカのYA(ヤング・アダルト)向け文学の最も注目される作家だった。我が国でも『ウィーツィ・バット』シリーズが刊行されていたが、熱狂的な成功には至らなかったようだ。登場する少女たちのライフスタイルや価値観が我が国でのそれと一致しなかったことが原因だと思われるが、この9編の短編からなる一冊は、さまざまな年代の少女像を生き生きと描いていてとびきり素晴らしい。中でもママの自殺、アル中のパパ、学校でのいじめの問題を抱える少女ラーをヒロインにした「ブルー」は、思春期の悩みを誰にも打ち明けられずに孤独と向き合いながら懸命に生きている子どもたちに是非とも届けたい作品である。四面楚歌のラーの前に、ある日クローゼットのドアから、白くて青みがかった肌をした小さな生き物「ブルー」が現れ、その日からラーの辛いことのあれこれの聞き役になり相談相手になる。ラーがクラスメートのチェルシーの誕生日に宝物にしていたママの香水瓶を贈るが「何これ?使い古しじゃない!」と投げ捨てられ、「空想の友達」「空想のプレゼント」とはやし立てられ、落ち込んだその夜、ブルーは、「このことを書きなよ。みんな書いてごらん」と声をかける。翌日、学校でローズ先生が「大好きな人のことを書いて」と宿題を出した。ラーはブルーと一緒に何もかもみんな書いた。ママのことも。先生に言われて、ラーがクラスメートの前で読むうち、不思議なことにみんなのことが気にならなくなっていった。チェルシーが「ラーのママって、すてきな人だったみたいね」と言って走って行った。みんなも変わったのだ。ラーがブルーに知らせようとクローゼットを開くと、そこにはもう洋服と靴と暗がりしかなかった。

 ベロニカの絵本『ラチとらいおん』を思い出させるこの物語は、人は成長に当たって心の支えになる存在を必要としているともに、自己の内面と向き合い自らを乗り越えてゆくことがいかに大切であるかを私たちに語りかけてくる。他の八篇にも詩的で豊かなイメージが溢れていて大人にも楽しい。

                                           

(詩人・NPO法人 語り手たちの会理事長)