私の一冊 343号

『スイミー』

私の一冊 341号
  • 『スイミー』 
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  •  レオ=レオニ 作/谷川俊太郎 訳 (好学社)      
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  •       勝野 俊一郎

 「本ばかり読まずに、外でちゃんと遊びなさい」と叱られるような子どもだった。読みかけの本の続きが気になって、親に隠れて、布団の中で読んだ覚えもある。ジャンルに関係なく、絵本や童話、図鑑や伝記、最後には大人が読むようなハードカバーの小説にまで手を出していた。今振り返ると、本当に内容を理解していたかも疑問だが、田舎育ちで他に娯楽がなかったことが大きかったのだと思う。

 印象に残っている本はいくつかあるが、なかでも『スイミー』(レオ=レオニ作 谷川俊太郎訳)は、よく覚えている。黒い小さな魚スイミーが、仲間たちと一緒に泳いで大きな魚になりすまし、怖い魚を追い払う。ストーリーもだが、幻想的な海の生物など挿し絵も好きだった。

 この絵本に出会って以来、私の名前「俊一郎」と「俊太郎」が似ている親近感もあって、谷川さんは気になる存在になった。鉄腕アトムの主題歌や『スヌーピー』の翻訳などで有名な人だと後に知ったが、私にとっては「朝のリレー」や「生きる」など、思わず口ずさみたくなるような詩を書かれる人といった印象が強い。実はこの文章を書くため『スイミー』を30数年ぶりに読み返したのだが、「ひろい うみの どこかに」という冒頭部分がおぼろげに記憶に残っていて、我ながら驚いた。おそらく当時、何度も口ずさんでいたからだろうと思う。

 その谷川さんを昨年11月、「熊本子どもの本の研究会」主催のイベントを取材して、初めて間近で見ることができた。「詩はどんなときに作りますか」といった中高生の質問に、ユーモアをまじえながら、しかし真正面から答えられていて、作品から受ける温かな印象そのままの方だった。

 会場のリクエストに応じて自作の詩もいくつか朗読された。残念ながら『スイミー』は読まれなかったが、谷川さんの詩の心地よいリズム感にひたることができた。至福の時間だった。 

                                      

(毎日新聞社 記者)