私の一冊 342号

目から鱗の『地獄変』

私の一冊 341号
  • 『地獄変』 
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  •  芥川龍之介著   (新潮社)      
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  •       渡邉 元子         

 大牟田市立図書館で、第3土曜日に開かれる「大人のための読書会」に参加している。図書館員のNさんが中心となって運営されている。会は、参加者が当番になって、自分の推薦する作品の紹介や、感想を述べ、他の参加者もそれぞれ感想を述べ合う、という形を取っている。一昨年10月に発足してから、私は2回当番になった。最初は、「銀河鉄道の夜」、2度目は芥川龍之介であった。

 私は、事前に文庫の芥川龍之介を全部読んだ。その中の「地獄変」が気になったので、これをやろうと思い、Nさんに、メンバーに「地獄変」を読むように伝えてくれ、と依頼した。

 私が気になったのは、「大殿」の人物像である。語り手(大殿の家来)は、すごく立派な特別な人のように言うが、読んでいるうちに、「なんだ、こりゃ。」と思った。ワンマンの独裁者に思えた。良秀の娘に思いをかけ、それが果たされないから、網代車に乗せ、焼き殺した、そしてそれを、良秀の「絵師根性の曲(よこしま)なのを懲らす」ため、と言い訳をしている、そう思った。

 昨年8月の例会で、私はこの疑問を参加者にぶつけた。すると、Fさんが、「この語り手は女じゃないか。」と言った。私はびっくりした。語り手は男と思い込んでいたからだ。Fさんは「女で昔から大殿に仕えていて、大殿を愛しているが、大殿は歯牙にもかけないような魅力のない女。」とさらに言った。

 そうだ、語り手は女だ。そうすればよくわかる。夜に娘が泣き崩れていたとき(この時、大殿に強く迫られたと思われる。)すぐ駆け寄って「どうした。」と言ったのも、男なら出来ないが、女なら出来る。

 「目から鱗が落ちた」とは、こういうことを言うのだろう。他の人も同じ思いをしたようで、しきりに頷いていた。  読書会の魅力はこんなところにあるのだと、強く思った。

                                    

(熊本子どもの本の研究会 会員)