私の一冊 338号

なぜ日本人は「ごんぎつね」に惹かれるのか

私の一冊 335号
  • 『なぜ日本人は「ごんぎつね」に惹かれるのか』 
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  •   鶴田清司 著 (明拓出版)        
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  •       河野 順子         

 「ごんぎつね」は、各教科書会社の小学校国語教科書全てに載っている長寿作品である。

大学生に「これまで習ってきた教材の中で一番心に残っている作品をあげてください。」と問いかけると必ず出てくる作品である。著者の鶴田清司氏は、国語教育学者である。しかし、本書は、「大人のための童話の読み方入門」であり、「ごんぎつね」をこよなく愛する「日本人論」として編まれている。

 本書では、「ごんぎつね」が私たちを惹きつける理由が次の五つの視点から描かれている。つまり、

  • ①南吉文学の魅力(郷土性、叙情性、少年心理の追求)
  • ②「ごんぎつね」の構成と文体の巧みさ
  • ③宮沢賢治童話、グリム童話、イソップ童話、アンデルセン童話との比較
  • ④死と向かい合う境地としての日本人の美意識
  • ⑤「真のやさしさ」とは何かという今日の時代性である

 こうした多様な切り口から私たちは「ごんぎつね」に再会することとなる。それはまさに日本人としての私たちのアイデンティティーを見つめ、編み直す作業となる。

 「ごんぎつね」を教えている学校の先生方が気軽に読んで、「ごんぎつね」の新たな発見をすることのできる本であり、学校で習うであろうお子さんをお持ちの方々がまた気軽に手にとり、お子さんとともに「ごんぎつね」の魅力を語り合うこともできるであろう。あるいは、昔、学校で、家庭での読書として「ごんぎつね」を手にした大人の方々が懐かしく手にとってみると、その頃感じた「ごんぎつね」とは違った「ごんぎつね」の世界に気づき、また「ごんぎつね」を手にしながら、新たな意味を人生経験と重ねながら見出すこともできる一冊となっている。

 秋の夜長に是非手にとっていただきたい本である。

                                    

(熊本大学教授・学校教育学博士)