私の一冊 337号

アジアをつなぐ英語

私の一冊 335号
  • 『アジアをつなぐ英語』 
  •     
  •   本名 信行著         
  •    (アルク新書) 
  •       井芹 道一         

 今年は、辛亥革命を通じてアジアで初めて中国に共和国が誕生して100周年。革命を起こした孫文と、日本で彼を支援し続けた宮崎滔天=荒尾市出身。さてこの二人は当時、何語で意思疎通していたのか。答は漢文だ。当時、日本人は漢文が読めた。日中韓では漢字を使っていたため、ある程度、筆談ができたようだ。だが100年後の今、漢文が読める人は少ない。韓国ではハングル、中国でも漢字の略字が使われる。漢字に代わって共通語化しているのが英語だ。

 このことは米国の大学に留学後、1980年に新聞記者となり、熊本を訪れる欧米やアジアの人々を取材する機会が多かった私自身、身をもって実感していた。それだけに2000年初め、この本のタイトルを目にしたとき、「わが意を得たり」だった。語学をする人にとって示唆に富む内容に満ちている。

 著者は国際コミュニケーションを研究する青山学院大教授。この中で「アジアの人々は英語を欧米人相手に使うより、アジア人同士で使う率が高い」とし、英語がアジアをつなぐ言語になると分析した。日本では英語は欧米人相手に使う言葉という固定観念が強いため、発音も欧米人をお手本とする「ネイティブ信仰」が現在でも強い。だが、地球上で英語を話す人口は、英語圏より非英語圏が多い。ネイティブも分かりやすい英語を話すべき時代になったと主張する。

 「日本文化を説明するために英語を使う」「日本人の完全主義は語学には大敵」「資格試験に合格ではなく、使うことを目的に」などの提言が並ぶ。そして「日本の空港などでの英語案内は、日本人のアクセントで日本人がする方が良い。その方が外国人は日本に来たことを実感できる」と、斬新な英語論を展開する。子どもたちがアジアの人々と話す道具として英語を捉え直せたら、滔天の国際感覚にも通じるだろう。今年から小学校でも英語教育が始まった。英語教育の今後を考える上で、新たな視点や視座を与えてくれる。

                                    

(熊本日日新聞社・文化生活部長兼論説委員)