私の一冊 335号

完訳 グリム童話集 全5巻

私の一冊 335号
  • 「完訳グリム童話集」全5巻 
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  •   グリム兄弟 著   金田鬼一 訳     岩波書店(1979年)      
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  • 竹内 識晃
                                   

 グリム童話を初めて本で読んだのは18歳の時である。子どもの頃、ほとんど昔話を読んだことのなかったわたしは、グリム童話の世界に一瞬で引き込まれてしまった。

 『グリム童話集』はヤーコプとヴィルヘルムの兄弟が、初版(1812年)から第七版1857年)に至るまで45年も推敲を繰り返し、210篇の話が採録されている。グリム童話の全訳には、金田訳以外にも、野村訳、池田訳などがあり、それぞれ文庫本で読むことができる。岩波文庫版では、訳者の配慮により、グリム兄弟が生前に省いたもの、遺稿、断篇などが加えられ、話の数が267篇となっている。この点が便利で、いつも手元に置いている。

 社会人になって、グリム童話の読書会に参加するようになり、様々な立場からの読みがあることに気づかされた。昔話の深い森に迷いこまないように、マックス・リュティの『ヨーロッパの昔話』やブルーノ・ベッテルハイムの『昔話の魔力』などの翻訳書を道標として、グリム童話を読み直してみた。すると、今までとは異なる昔話の世界が開けたのである。昔話に興味を持ってからは、各国の民話集を読むようにもなり、グリム童話の類話と出会うことも、読書の楽しみの一つになっていった。

 現代に生きるわたしたちが、グリムの昔話や日本の昔話をどのように子どもたちに継承していけばよいのか。昔話研究者は何をしたらよいのかを考える時期に来ているのだろう。メディア社会に生きるわたしたちは、記録媒体がカセットテープからCDなどに変わっても、子どもたちに昔話を届ける機会が多いのは、公共図書館や文庫活動などでお話会をされている現代の語り手たちである。最近では、インターネットを活用し、日本民話データベース「日本各地の語りの記録」ように伝承の語り手の語りをコンピュータで聴くことも可能な時代になった。伝承の語り手と現代の語りをつなぐ、このような活動を含めて、一人でも多くの子どもたちや大人が昔話に出会ってくれることを願っている。  

                                    

(熊本子どもの本の研究会 会員 千葉県在住)