私の一冊 316号

愛蔵版おはなしのろうそく1

愛蔵版おはなしのろうそく1
  • 『愛蔵版おはなしのろうそく1』
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  •                 (東京子ども図書館)
  • 田中 千代野

 25年間、おはなしおばさんとしての私を育ててくれた愛すべき一冊は、本書に収められている松岡享子訳「かしこいモリー」です。ぜったい外れない人気メニューとして、5歳~小学3年生限定に、いったい何人の子ども達に語ってきたのだろう。

 「あまりたくさんの子どもがいて、みんなを食べさせることができなかったので下の3人の女の子を森の中にすてました」の冒頭から、一様に「えー」と どよめく子ども達。そして耳をそばだてる。大男とモリーのスリリングな追いかっけこの度に走る仕草をしていた女児。与えられる難題に「むりむり」とかぶりを振る子ら。「やっとつかまえたぞ」と大男に腕をつかまれるモリーの窮地に息をのみ、「おまえを死ぬまでぶったたいてやるわ!」と叫ぶモリーの肝っ玉に、どっと安堵する。ここで「わー」と喜びの歓声をあげてしまった2年生男児がいた。自分でも思いがけない心の高まりだったのだろう。しばらくは見るも可哀想なくらいしょげていた。―先生から「静かに聞くのよ」と言い聞かされていたのかもしれない―。

 又、語り終えた私に直ぐ「そのおはなしつくったん?」と夢心地の顔で尋ねた5歳男児がいた。400人の子ども達が心ひとつにモリーに喝采をおくった日もあった。緩急があり、緊張と緩和が聞き手の心のリズムとぴったり重なった巧みな文章は、舌に乗せても心地よく訳者の松岡享子先生への尊敬の念でいっぱいになる。

親から捨てられたモリーが自分と姉たちのために自ら危険の中に身をおき、知恵と勇気で幸せを勝ち取る冒険譚にこれからも多くの子どもたちがはげまされていくのだろう。

 そして、巻頭言もすばらしい。私が、講話時に、保育士さん、先生方、お母さん達に結びとして朗読させていただく一節。「どうぞこどもたちにおはなしをしてあげてください。おはなしはおとながこどもにおくる一番いのちのながいおくりものです」。 みなさん 大きくうなずきながら聞いて下さる。(ありがとう、おはなしのろうそく!)私はまたもや心の中で喝采する。

(おはなしきゃんどる主宰・熊本子どもの本の研究会会員)