私の一冊 308号

三国志

今月の私の一冊307
  • 『三国志』
  • 吉川英治/著  吉川英治歴史時代文庫(講談社) 全八巻
  • 叶井 美穂 

約千八百年前。日本では卑弥呼が邪馬台国を統治する頃、中国の魏・呉・蜀の三国時代の壮大な歴史ロマン。正史ではないが、「七実三虚」の『三国志演義』をベースに、人物描写に新たなる解釈を加えたり、日本人好みにアレンジされている。「桃園の巻」冒頭の青年劉備の設定や、関羽、張飛との出会いの場面などは、『三国志演義』にはなく吉川氏のオリジナルである。  

 「赤壁の戦い」が昨年映画で話題となり、『三国志』は男性のものだと思ってきたが、この機会に活字で読みたくなった。種々の書物の中から、入門書としてこの吉川版に辿り着いた。一九八九年初版で、二〇〇八年も版を重ねている。

 序章で著者は、『三国志』には詩がある。単に尨大な治乱興亡を記述した戦記軍談の類でない所に、東洋人の血を大きく搏つ一種の諧調と音楽と色彩とがある。あまりに現代語化しすぎると、その文字の持っている特有な色彩や感覚を失ってしまう。と書いている。赤壁の前に、まず漢字の壁にぶつかる事になった。

 

 心に残ったのは、人徳があり、民衆を大切にした劉備。三顧の礼をもって軍師として迎えられ、知力を尽くし、頭脳で闘う孔明。孔明と劉備の絶対的な信頼関係と、「桃園の誓い」を結んだ三人の義兄弟の関係。この絆を、生涯命賭けで守り、絶対絶命の危機をも乗り越えていく。それに反し、裏切り者の悪が裁かれるのは、胸がすっとした。

 英雄たちの陰に、強き母の姿も描かれている。我が子を愛し、平和を願う気持ちはいつの世も同じではないだろうか。「女たちの忠臣蔵」というのがあったが、この時代に生きた女性にも、ドラマがあったのだろうと思いを馳せる。

    

                                   (熊本子どもの本の研究会 会員)