私の一冊 305号

漂泊の王の伝説

私の一冊 302
  • 『漂泊の王の伝説』
  • ラウラ・ガジェゴ ガルシア 著/松下直弘 訳 (偕成社)
  •          金原   瑞人 
     
 

 新年にふさわしい本を一冊……といわれて、ちょっと考えてみた。昨年、とくに印象に残った作品といえば、国内だと『女の絶望』(伊藤比呂美)『ファミリー・ポートレイト』(桜庭一樹)『光』(三浦しをん)『聖家族』(古川日出男)『宿屋めぐり』(町田康)など続々と頭に浮かんでくる。それじゃあ海外はどうかというと、これもまた次々に頭に浮かんでくるのだが、ダントツでおもしろかったのは『漂泊の王の伝説』だ。このせいでほかの作品がほとんどかすんでしまった。

 

 スペインの現代女流作家、ラウラ・ガジェゴ ガルシアのこのファンタジーは、これまでの類型的なファンタジー作品とはまったく異なった視点に立って書かれている。たとえば、『指輪物語』『ナルニア国物語』『ゲド戦記』から『ハリー・ポッター』にいたるまで、多くのファンタジーの中心は「善と悪の戦い」「光と闇の戦い」であったり、「光と闇は相反するものではなく一体なのだといったテーマ」であったり、「選ばれた英雄の活躍」であったり……なんか、そろそろ飽きてきたかなと思っていたところに、『漂泊の王』! そうそう、こういうファンタジーを読みたかったのだ。

 「ムハンマドがあらわれ、イスラームが成立する以前、アラビアは神秘と伝説の土地だった」と始まる、この物語の主人公はキンダ王国の王子、ワリード。ワリードは王子として申し分なく、戦いにすぐれ、賢く、思いやりもあり、そのうえ詩の才能にもめぐまれていた。ところが、その詩の才能と詩への情熱がワリードを破滅の道に導くことになる。

 

 そして後半、ワリードの「人類の歴史すべてを織りこんだ絨毯」をさがすための放浪の旅と冒険が始まる。

 

ファンタジー好きの人にはもちろん、ファンタジー嫌いの人にこそ勧めたい、文句なしにおもしろいファンタジー! あらゆるファンタジーの源がここにあるような気がする。

                       (翻訳者・法政大学教授・熊本子どもの本の研究会賛助会員)